50年かかった初の英語の枕論文の掲載までの歴史や研究計画や実行
2023年2月2日にザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・セラピー・サイエンスという雑誌に私の論文が公開されました。
Changes in neck pain and somatic symptoms before and after the adjustment of the pillow height
今回はこの1本の英語の枕の論文が世に出るまで、50年(=半世紀)かかった私と父の初の枕の英語論文についてお話したいと思います。
皆さんは英語論文と聞くとどんな印象をお持ちでしょうか。
難しそうだなとか何だかわかんないなぁとか自分には関係ないなんていうふうに思うかもしれません。
また一方でなんかすごそう、かっこいい、役立ちそうと思う方もいるかもしれません。
実はとってもシンプルなんです。
英語論文を書いてそれが公開されるということは、自分の信じる事実・科学・心理を世界中の人々に永遠に伝える方法なんです。
なぜこの英語論文が出たことが素晴らしいのかと言うと、ザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・セラピー・サイエンスは特に一定の信憑性の高いしっかりした理論に基づいた科学的検証の論文だけを扱っている検索サイトだからなんです。
Pubmedという英語論文検索サイトに例えば「pillow」(=枕)と入れていただくと私の論文が現在ですと62番目、「pillow height」(=枕の高さ)と入れていただくと5番目に出てきます。
全世界の医学者や科学者がこのサイトを見て、どのような新しい論文が出ているのかを検索するわけですのでそのような方々が認知するチャンスが生まれたということです。
逆に言えば日本語で書いた論文しかないと、ほぼ日本人しか読めないわけですから、どんなに素晴らしい理論であっても世界で認識されることはないわけです。
今回は論文についての詳しい内容を紹介するわけではありません。
論文作成に取り組み始めてから完成までの8年間、非常に紆余曲折様々なアップダウンがあって到達した軌跡について紹介していきたいと思います。
枕の真実や心理の気づき
当院は私の父が町田市の成瀬で成瀬整形外科というクリニックを行っておりました。
その後父が亡くなって私は神奈川県相模原市に病院を移転し「16号整形外科」という名前で現在まで続けてきております。
1972年からなんと50年以上の月日が経ちました。
この整形外科で行っていることは大きく分けると2つあり「臨床」と言って患者様を見てその治療を行うこと。
臨床は日常の毎日の診療の中で見られる光景、模型を用いて患者様に説明し治療の必要性をお話しして実際に治療を進めていくとても重要なことです。
もう一つは「学術」と言って日々の診療の中からもたくさんの疑問が生まれ、それに対して研究を行って回答を科学的に導くという2つの側面があります。
この中でも学術において父はほとんど論文を残さなかったので、英語はおろか日本語の論文もありませんでした。
世界に残さなければいけない枕の真実や真理というものに気づいたわけです。
英語でないと世界中の人が必要とした場合に手に届かないという厳しい現実があります。
枕の歴史を紐解く
実際に1977年の父が開業して間もなくの頃のカルテを見てみると、中に「枕」という漢字が書いてあるんです。
しかし、父には枕論文がない。英語はおろか歴史を紐解いてみても日本における枕の論文はごくわずかでした。
世界の起源は1940年代のルースジャクソン先生の研究だと思われます。
枕に関する海外文献と山田の考えはいろいろなところで相違点がございました。
2003年当時、日本における枕論文はごくごくわずかでした。
枕で検索して出てくるのは
・床ずれ用の枕
・褥瘡用の枕
・手術中のポジショニング枕
・赤ちゃんの窒息と枕
・妊婦さんの横向き用の抱き枕
・看護における枕の利用
・整体と枕
整形外科領域ではわずか3本ほどしかなく、MRIでの枕の比較、頚椎捻挫の患者様に対しての枕、枕の素材についてというようなものでした。
世界に目を向けてみると1940年代頃にはすでにルースジャクソン先生はたくさんの論文を残しています。
先生はその後アメリカの初めての整形外科学会の女性会員となり、1983年には先生の研究室が設立されました。
名実ともに頚椎の専門家でいらっしゃるわけです。
枕に関する海外論文と私の考え方の比較
一番重要なところを見ていただきたいのですが、枕の重要な条件について海外では素材・形・温度が重要という風に考えています。
でも私は一人一人の体格に合った枕の決定高さを決定することが枕の最大に重要な要件と考えているわけです。
その結果寝返りが最もスムーズにできることが重要です。
枕の高さについては海外の論文は5cm(=50mm)の差を重視しています。
例えばある論文では5cmの枕と10cmの枕と14cmの枕を比較して論じているのですが、私からすればこれはあまりにも大きい差です。
私は5mmで考えなければいけないとしているわけです。
ですので大きな差が日本と海外ではあるということこの結果からもわかります。
枕の研究計画と実行
同志に出会う
メンターに出会い、チームを作る
当社当院のフォロー
実際に何か研究を行うと思うと多くの人の手助けを借りてそしてチームで研究を進めていかなければなりません。
トップにあるのは総合的な指揮者、次にデータサイエンス・統計解析、さらにデータ解析や論文調整調査、もっとベースの仕事で言えば
研究計画を立てて実施しデータを収集する人が必要になってきます。
それも精力的にやってくださる発起人の人が必要なわけです。
多くの手の借りてやっと論文が出来上がるのです。
〇山のように必要な書類
研究をやり始める前に計画書、倫理審査の依頼書、患者様の説明や同意書、また途中で患者様が研究に参加することを中断したいと言えばそれに対する同意書や撤回書も前もって取らなければなりません。
などなど山のような書類を提出しないと研究を始めることはできないんです。
一方で臨床入門の資格というものも必要で、臨床研究を行うためには正しい臨床の考え方を持っているかどうかということが試されます。
私もオンラインで授業を受けてきちっと臨床入門の資格をとって研究に臨みました。
データ解析と結論
論文は研究発表とは異なる次元の高い制度が求められます。
研究デザインの重要性どんな結論を証明しいたかによって研究デザインが変わってきます。
データ解析によって伝えたいメッセージが変わります。
研究デザインの重要性
最終的にどんなことを証明したいかどんな結論を導きたいかによってスタートの時点が変わってきます。
外来で多くの患者さんを見て枕って有効だなと思っていたことが、実験・研究を通して本当に科学的に客観的に証明するためには非常に重要なデザインということに注意を払わなければなりません。
特に頚部痛のみではなく様々な睡眠の障害を含む身体化症状が改善しているということについて、統計的な差が出るのかどうかというデザインを組みました。
データ解析・統計処理の重要性
解析方法・統計処理の段階でも様々な方法がありますが私はこの専門家ではないので、一緒に行った東京大学22世紀医療センターの松平教授と岡教授のアドバイスをいただいて素敵な研究デザインを使うことができました。
MCIDと言って患者様にとってこの結果が本当に臨床的に意義がある差となっているのかどうかということを検証する一つの方法となっています。
枕の論文化の難しさ
初めての論文投稿は困難の連続でした。
雑誌社からは何度となく却下され、論文を受け入れてもらえないという現実があってそれに耐えながら学びながらまたトライするしかないんです。
世界的に有名なジャーナル雑誌がありますけれども、私の目的はそういった高度なジャーナルに載ることというよりも、世界中の人にこの 枕の心理が伝わることが目的だったので、その雑誌の高度さを図るインパクトファクターというものにとらわれずに投稿しようと決めました。
まずは枕の高さ・寝返りの重要性について今回の論文SSS8という方法を用いた論文を発表したかったんですが、その前に枕の調節法や寝返りのスムーズさということを定義しなければなりません。
これだけでも一苦労です。
前もってその定義をする論文も用意しましたがなかなか受け入れられることはありませんでした。
このような長い長い苦難の道のりを超えて8年間もかかってやっと医学論文が1本世界に出たわけです。
インターネット上に掲載された論文は紙の論文とは異なり、印刷されなくなって廃盤になるということはありません。
いつまでもこの理論がインターネットが続く限りは誰でも閲覧できるようになったわけです。
私は枕の理論を世界中の人々に永遠に知ってもらうチャンスを得たということが一番重要な今回の効果だと思っています。
そして諦めなければどんな高い山でも必ずゴールにたどり着けるということも自分自身学びました。
私以外にも多くの医師や科学者が自分の信じる理論を英語論文という形で世界に発表していく。
それによって私たちは大切な重要な科学を知ることと実施することができるのでとても重要なことだと考えています。
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「世界的に珍しい」
今回の英語論文で私が伝えたかったことは
枕の高さ調節で首の痛みが取れた
枕の高さ調節によって
首の痛み、不眠、自律神経症状が改善するという事実
つまり枕は整形外科の治療道具になり得る
ということです。
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