2004.01.01 研究情報

枕とアロマセラピー ~より良い眠りのための工夫~

●目次
●はじめに
●現代人の睡眠満足度
●21世紀の快眠市場
●不眠症とは
●不眠症分類
●整形外科的睡眠の研究
●寝姿勢を決定する枕の条件
●アロマセラピーで熟睡を

はじめに

21世紀日本国民の約20%にあたる2400万人、つまり5人に一人が睡眠障害といわれます。昼夜の差のない24時間稼動型社会とは、人間にとって本当に快適な生活なのでしょうか。快適至便に感じる人工的な環境において、人間は動物本来の生理的な能力を失いかけているのかもしれません。人間が生きるための最も基本的な行動を「情動」といいます。食べる、眠る、子孫を残す行動や能力です。快適さ、合理性の中にも、「動物である人間」本来の情動、生体リズムを守ることは不可欠なのです。

21世紀型睡眠障害の代表として、神経症性不眠症、睡眠覚醒リズム障害、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome=SAS)などが挙げられます。不眠症は病気の一症状として捕え、早期に治療を要するものもあります。しかし、不眠症に対する日本の医療現場における治療体系は、まだ充分に整っていません。また、歴史的に精神科領域での研究が主体となってきた研究分野のため、不眠症の原因が精神・心理領域のものと考えられがちな傾向ですが、実は大変広い診療科領域の症状なのです。本編では「より良い眠り」を提案するために、まず「眠れない(不眠症)」の理解を促し、そして整形外科の立場から寝姿勢を決定する枕の重要性を解説し、更に熟睡度をあげるアロマセラピーの有用性と実例について示します。

現代人の睡眠満足度

2003年3月に花王(東京都中央区)が、首都圏在住の20~40代の女性450人を対象に睡眠満足度調査を施行しました。自分の睡眠に満足と答えたのは46%、不満と答えたのは過半数を超える54%でした(図1)。

しかし満足と答えた人も含めて「不満要因はありませんか?」と訪ねると、「全く不満要因がない」と答えたのは、わずかに13.8%、残る86.2%は何らかの不満要素を持っているという結果でした(図2)。興味深いのは、その不満要因(複数回答)の内容です。最も多かったのが「睡眠時間が足りない」で54.7%、次に「寝つきが悪い」35.1%、「眠りが浅い」32.4%、「夜中に何度も目が覚める」19.3%と続いています。

近年、日本人の平均睡眠時間は確かに年々減少傾向にあります。2000年にNHKが行った国民生活時間調査の結果では、日本人の平均睡眠時間は7時間23分です。30~40代の働き盛りの年代層がもっとも睡眠時間が短い結果となっており、約4人に1人が「自分は睡眠不足である」と感じているといいます。しかし睡眠時間が6~7時間という数字は、極端に少ないものではありません。つまり、睡眠の満足度とは単に睡眠時間の多い少ないではなくその質が重要なのです。では、「眠るための工夫」としてどのようなことをしているのでしょう。

同調査の結果(複数回答)では、第1位はマッサージ、ストレッチで43.6%、第2位は読書で38.2%、そして第3位はアロマセラピー32.7%となっています。アロマセラピーは、1980年代後半から日本人の生活に取り入れられてきました。一時は流行とともにトラブルもありましたが、この結果からも、現在は安全性と有効な使用法が市場にも普及してきた事を感じます。

図1 図2

21世紀の快眠市場

睡眠満足度調査の結果を反映するように、「眠り売ります」の快眠産業は全盛を迎えています。1995年以降、アメリカンマーケティングの主流になった快眠産業ですから、日本では他の流行産業同様、約10年後にピークを迎えるというわけです。睡眠薬、睡眠改善薬、サプリメント、健康食品、寝具、枕、照明器具、空調、マッサージチェア、ホテルや寝具ショールームそして企業内の昼寝専用スペース、音楽、香り、ハーブティー、アイマスク、快眠ドリンク剤、快眠パジャマ等々。本道をそれたものも少なからず見受けられます。近い将来3兆円巨大市場へと拡大が予測される快眠市場です。快眠市場が拡大するとは、世の中に眠れない人が増えてしまうという事なのでしょうか。

2003年4月エスエス製薬が販売開始した「ドリエル」は、医師の処方箋無しで購入できる国内初の睡眠改善薬です。製薬業界では驚異的なヒットを記録しています。日本人は不眠を訴えて、医療機関を受診する事が少ないという報告があります。たとえ病院の敷居をまたいでも、総合受付で「一体、何科にかかればよいのか?」となります。専門の睡眠外来があればよいのですが、この標榜はまだまだ特殊機関にしかありません。まだ医療側も振り分けができるほど、「不眠症」は診断治療において体系化されていない現状です。
「一日がかりで病院にいっても説明も充分にないし、結局解決にならない」と現行医療への不信も手伝って、手軽に購入できて直ぐ使用できる市販薬のニーズは高まるわけです。風邪薬や抗アレルギー薬の成分中の、眠くなる成分だけを取り出す睡眠改善薬に、副作用の面から肯定しない専門医も少なくありません。この問題解決には、症状に悩む人々の不眠症に対する正しい理解と、これを取り巻く医療や社会の適切な方向への発展が必要です。

不眠症とは

睡眠科学の第一人者であり臨床医でもあるウィリアム・C・デメントは「不眠症を治療する時の最大の障壁は、これが深刻な問題だと納得してもらうことだ。」と指摘しています。不眠症とは一つの症状です。病気の種類ではありません。患者様も医者も、不眠症という症状の“原因”を追求するより、安易に睡眠薬でそこそこの対処をする傾向は否めません。この初歩的な認識の誤りが、長期にわたる睡眠負債(不眠状態が蓄積すること)となって悪化していく原因となります。数々の成人病など合併症の引き金となるばかりでなく、活力や認知能力が蝕まれ、個人の生産性を低下させたり、眠気ゆえの思わぬ事故へとつながることにもなります。

原因の解明が重要です。「眠れない」が始まったその頃にきっかけとなる出来事がなかったか、同時に起こった症状がないか探してみるのです。一過性の心身ストレス、肉親の不幸など心の傷、転居や仕事内容の変化など生活環境の急な変化、騒音や照明といった睡眠環境の悪化、仕事に集中して興奮状態が続くなど、どのようなことでも原因となりうるのです。原因が見つかれば、これをコントロールしたり、排除すべく対処法をこうじることができるのです。また嗜好品のアルコール、カフェイン、ニコチンは不眠の原因に挙げられています。病気の治療で処方された薬剤(血圧降下剤、気管支拡張剤、抗潰瘍剤、ホルモン剤など)の副作用として不眠が起こることも有ります。

次に病気の一症状です。病気の種類を問わず、夜間に痛みや痒みがあれば睡眠が障害されます。最も多いのが首と腰の疾患があって、首痛、頭痛、手のしびれ、腰痛、足のしびれ、こむら返りなど目が覚める事です。これは寝具や枕の影響が非常に大きいのです。また内蔵痛として胃潰瘍の上腹部痛や、尿管結石などの背部痛なども睡眠が妨害されます。アトピー性皮膚炎の痒みは夜間の掻痒行動として目が覚め、老人性皮膚掻痒症では入眠時に血管が拡張し痒みが出現します。他にも、前立腺肥大や膀胱炎でトイレ回数が増えれば、睡眠が中断されますし、喘息や肺・気管支の病気では咳や呼吸の苦しさで熟睡できなくなります。不安神経症やうつ病の一症状としての不眠症は、早期に専門医に相談することが肝要です。

不眠症分類

不眠症分類として、眠れないタイプによるタイプ分類があります。不眠症診断のための1つの情報となります。寝つきの悪い入眠障害、夜中に何度も目が覚める中途覚醒、朝早くに目が覚め眠れなくなる早朝覚醒、時間的には寝たはずなのに朝起きて熟睡感のない熟眠障害です。例えば、うつ病の不眠症は早朝覚醒とその後の浅睡眠による不快感の訴えが多く、アトピー性皮膚炎の痒みによる不眠症は途中覚醒が多いというように、病気によっては特徴的なパターンを示す傾向がつよいものもあります。ただし、すべてがタイプ別に、一対一対応で特効的な治療が見つかるわけではありません。医師が患者様に睡眠薬を選択し処方するとき、分類に従ってどの時間帯に薬効を発現させるかの指標になります。入眠障害なら超短時間作用型の睡眠薬を選択し、中途覚醒や早朝覚醒のタイプでは、睡眠を維持しなければならないので中間作用型や長時間作用型が有効といえます。

整形外科的睡眠の研究

2002~2003年にかけて、当院(整形外科診療所)に来院した患者様260人に対し、「自分の枕に満足ですか?」と質問しました。

満足と答えたのは12%のみ、どちらでもない26.3%、不満と答えた人は61.7%でした。不満と答えた方に枕調節をしたのち、今度は枕についてではなく、「自分の睡眠に満足ですか?」と質問すると、実に76%が満足、以前より眠りが良くなったと答えました(図3)。

その改善の理由には、「短時間でもぐっすり深く眠れるようになった」、「夜中に首や肩が痛くて目が覚めていたが、起きなくなったので熟睡できる」「枕に頭をのせると安定感があり、すぐ寝つけるようになった」「枕を換えて、夜中に何度もトイレに起きていたのに行かなくなった。朝方トイレに起きても、又すぐ寝つける」などです。この結果から、枕という単純な物理環境が、眠りの質に影響しているのがかわかります。

不適切な枕を使用することが原因で睡眠が障害される事を枕不眠と呼びます。枕不眠は、先に示した不眠症タイプ分類のいずれにもありうるのです(図4)。ただ単に枕が不適合なために、首の痛みや頭や腕の置きようがない、そして寝付けないとなります。夜中に目が覚める人も、朝早く起きてしまう人のなかにも、枕が適合していないために下になった肩が痛い、手がしびれる、首の痛みや腰痛などで睡眠深度が浅くなり、とうとう目が覚めてしまう人があるのです。変形する枕では、夜間に寝返りを打つたびに頚椎が不安定になり、上下左右の動きが生じて頚神経を圧迫します。「枕が合わなくて不眠症になる?なぜだろう」疑問に思う方もいるでしょう。

図3 図4

次に、寝姿勢を決定する枕の条件と、不眠症の関係を説明します。枕とは、就寝時に頭をのせるものと考える方が多いのですが、頭を置いた高さと置く素材によって首(頚椎)の位置を決定されるのです。その理由は、頚椎の解剖にあります。

図5に、人間の頚椎とその後方の椎間孔(神経の出口となる穴)、そして頭部、頚部、肩~肩甲骨周囲、両上肢まで神経支配する第1~8頚神経の解剖図を示します。睡眠中の不適切な静的寝姿勢や動的寝姿勢つまりダイナミックな寝返りにより、椎間孔が変形し、頚神経が圧迫されると、頭痛、頸肩腕の痛み、背部痛など各部の疼痛、後頭部、頚部、上肢のしびれ、血流異常による首や肩のこり感、手指の冷感などが生じるのです。また、頚椎の位置が異常になると、連続する腰椎にも異常をきたし腰痛や坐骨神経痛、下肢の冷感の原因にもなります。不快な身体症状は、結果的に熟睡を阻害します。熟睡は脳の休息であるノンレム睡眠と関係が深いといわれます。翌朝には体がだるい、やる気が起こらないなどモチベーションの低下や精神的な症状にまでも発展します。

図5

寝姿勢を決定する枕の条件

正しい枕の3大条件は、(1)個人の体格・寝返りにジャストフィットする高さ (2)浮き沈みのないフラット形状 (3)適宜調整(メンテナンス)です。

(1)個人の体格・寝返りにジャストフィットする高さ
個人の体格・寝返りに最適な高さは、枕の最重要ポイントです。高さは、次の2つの条件下で適合していなければなりません。静止時の頭~頚~体の寝姿勢と、運動時つまりダイナミックな寝返り動作をする時の寝姿勢の2つの条件です。この2つを満たすとき、熟睡による心身の回復が得られます。抵抗のない寝返りは、体の体液つまり血液、リンパ液、関節液の循環を促し疲労した組織を修復するとともに、日中起立時に負担のかかる脊椎を休ませ回復させる働きをもつのです。

静止時の条件ですが、これは上向きと横向きの両方で首の角度が最良になる高さを決定しなければなりません。上向きの適合のみでは、横向きになると下になった肩が痛い、腕の置き所がないという現象がおこります。上向きでドーナツ型枕の中央の低いくぼみに頭が入り、横向きではサイドの高い部分に乗るというのは理論上の話です。頚や肩の痛みのある方は、途中で高い部分への山登りを止めて大きな寝返りを諦める人もいます。横向きでは体の中心軸が床面と並行になるように合わせます。上向きでは床面に対して首が前傾5~10度になるようにします(図6)。

これは頚椎の後ろにある椎間孔という神経の出る穴が一番大きく開いて、神経がゆるめられ神経を栄養している血液循環がよくなる姿勢なのです。低すぎる枕で後傾姿勢になり、高すぎる枕で前傾が過度になり、先に述べたとおり頚神経が圧迫を受け、こりや痛み、しびれが出現するのです。横向きでも同様に、右に傾くと右の椎間孔が狭くなり、右肩や右手に行く神経が圧迫され、右上半身の痛みやしびれが出現しやすくなります。(図7)左に傾いても同様です。

最適な高さ調節は5mm刻みで行わなければなりません。人間の深部感覚は5mmの差で、自分に最適な高さを見分ける事ができます。そして、最後の確認は寝返りです。静的寝姿勢を決定した後、動的にも最良かどうかを確認します。5mm高すぎても、低すぎても、「全く抵抗のない寝返り」を打つことができないのです。

図6

図7

正しい枕の3大条件は、(1)個人の体格・寝返りにジャストフィットする高さ (2)浮き沈みのないフラット形状 (3)適宜調整(メンテナンス)です。

(1)個人の体格・寝返りにジャストフィットする高さ
個人の体格・寝返りに最適な高さは、枕の最重要ポイントです。高さは、次の2つの条件下で適合していなければなりません。静止時の頭~頚~体の寝姿勢と、運動時つまりダイナミックな寝返り動作をする時の寝姿勢の2つの条件です。この2つを満たすとき、熟睡による心身の回復が得られます。抵抗のない寝返りは、体の体液つまり血液、リンパ液、関節液の循環を促し疲労した組織を修復するとともに、日中起立時に負担のかかる脊椎を休ませ回復させる働きをもつのです。

静止時の条件ですが、これは上向きと横向きの両方で首の角度が最良になる高さを決定しなければなりません。上向きの適合のみでは、横向きになると下になった肩が痛い、腕の置き所がないという現象がおこります。上向きでドーナツ型枕の中央の低いくぼみに頭が入り、横向きではサイドの高い部分に乗るというのは理論上の話です。頚や肩の痛みのある方は、途中で高い部分への山登りを止めて大きな寝返りを諦める人もいます。横向きでは体の中心軸が床面と並行になるように合わせます。上向きでは床面に対して首が前傾5~10度になるようにします(図6)。

これは頚椎の後ろにある椎間孔という神経の出る穴が一番大きく開いて、神経がゆるめられ神経を栄養している血液循環がよくなる姿勢なのです。低すぎる枕で後傾姿勢になり、高すぎる枕で前傾が過度になり、先に述べたとおり頚神経が圧迫を受け、こりや痛み、しびれが出現するのです。横向きでも同様に、右に傾くと右の椎間孔が狭くなり、右肩や右手に行く神経が圧迫され、右上半身の痛みやしびれが出現しやすくなります。(図7)左に傾いても同様です。最適な高さ調節は5mm刻みで行わなければなりません。人間の深部感覚は5mmの差で、自分に最適な高さを見分ける事ができます。そして、最後の確認は寝返りです。静的寝姿勢を決定した後、動的にも最良かどうかを確認します。5mm高すぎても、低すぎても、「全く抵抗のない寝返り」を打つことができないのです。

(2)浮き沈みのないフラット形状
せっかく高さをジャストに適合させても、睡眠中に形状が変化しては意味がありません。枕の第2の条件は素材の硬さと形状です。硬さは“頭が沈み込まない硬さ”です。素材がソバガラやプラスティックチップなど小さな粒状のものや、羽毛ほか新素材でも頭の重みで沈むものは、いびつな形に変形する可能性が大きいのです。寝返りのたびに頚椎は不安定にぐらつきます。

枕を感触で選ぶ人がいますが、気持ちがいいと感じるのは寝入るまでの、言ってみれば覚醒時のごく短時間のことです。平均6~7時間の睡眠時間中、不適切な姿勢を強いられても目が覚めないとき、症状は朝に現れます。首が痛くて回らない、頭痛がする、体がだるくて起き上がれないなどひどい症状もあります。自分の体格に合った高さが決定できたら、今度はそれを維持できる素材選びが不可欠です。

形はフラット形状が最良です。凹凸や彎曲は不必要です。その理由は寝返りを打ちやすくするためです。大きさは横幅50cm位あれば寝返りをしても頭が落ちません。奥行きは30cm前後あれば、まず足りない方はいません。

(3)適宜調整
(3)適宜調整とは、これほど精密な調整をしても、使用するうちにさまざまな枕使用条件が変わる事があります。例えば、使用者の体格の変化です。5mm刻みの適合は、体重5kgあたりで変動します。体重が5kg増えれば約5mm枕を高くし、5kg減量したら約5mm低くしなければなりません。成長期の子供の場合は身長の伸びとともに肩など骨格も変化するので、適宜調整が必要になるのです。また寝具(ベッド)や敷物(布団など)の変化によっても、枕の落ち込み具合がかわるので再調整が必要になります。

以上の適切な枕調節によって、静的寝姿勢と動的寝姿勢の両方を最適な条件にし、副交感神経優位となる熟睡を促し、心身の充分な回復をとってください。

アロマセラピーで熟睡を

図8 アロマセラピーを熟睡のために活用する事はよく見受けられます。代表的な精油として真正ラベンダーが挙げられます。リナロールや酢酸リナリルなど鎮静効果の期待される成分を充分に含むものであれば、同様に使用できます。整形外科に通院する患者様で不眠を訴える18症例に、夜間の真正ラベンダー(ハイパープランツ(株)、東京)の使用を薦めました。電気ポットに0.4ml/一晩を滴下し吸入する方法です。15名(83%)が睡眠深度の変化(熟睡度が上がる)や入眠の速さを自覚し、ほか1名は香りに嫌悪感を訴え、残る2名は不変でした(図8)。真正ラベンダーは有意に睡眠の質をあげる結果となりました。また、これまで睡眠薬内服歴のあった5例は、睡眠薬との違いを「朝、眠気が残る感じがない」「ぐっすり眠れるが、朝はすっきり起きることができる」と感想を持っていました。

症候性の不眠症として、かゆみが原因となることを前述しました。アトピー性皮膚炎や花粉症では、皮膚や目のかゆみ、鼻汁によって途中覚醒を強いられます。ティートリーやユーカリラディアータ、ユーカリグロブルスなどの吸入は有効例も多く、睡眠の継続が可能となります。

このように不眠症の原因に適切な作用機序でアロマセラピーを選択することは有意義であると考えます。

最後に枕調節とアロマセラピーが有効であった症例を供覧します。症例1は、77歳女性、頚部および腰部変形性脊椎症および骨粗しょう症による円背(背中が変形して丸くなる状態)の患者様です(写真1)。頚椎の変形が著しく、肩の痛み、首こりと手のしびれを訴えていました。円背のため上を向いて寝ることができず、毎晩横向きのみで寝返りを打てずに寝ていました。寝入るにも時間がかかり、夜間はトイレに何度も起きるため睡眠が分断され、朝から不快感がありました。そこで枕調節と真正ラベンダーの吸入を施行しました。枕の高さは、身長体重からの推定値よりかなり大きなものとなりました。理由は円背によって、上向きで頭が床面から大きく離れているためです。それまで使用していた低い枕では後頭部が落ち込み気道を圧迫するため、上向きでは寝られないか、寝ても夜間に体の各部の痛みで目が覚めていたのです。使用した一晩目から改善が現れ、患者様は寝返りが打てる事に驚いていました。朝には肩こり、頭痛が改善し、体の動きがよくなっているのです。これは不思議な事ではありません。それまでが寝返りも打てない不適切な寝姿勢によって生じていた症状が消失し寝返りによる関節運動により関節液が循環した朝、体が動かしやすくなるのです。トイレに起きる回数も減少しました。高齢者は泌尿器の問題で夜間のトイレ回数が増えるといわれていますが、中には加齢による骨の変形に不良な寝姿勢が加わって痛みのために睡眠深度が浅くなり、目が覚めるのでトイレに起きていくことが習慣になっているケースも多いと思われます。また明け方トイレに一度おきても、アロマセラピーの香りをかぎながら再度入眠するのに時間がかからないといいます。すっかり表情まで明るくなりました。

現在、不眠症を整形外科の視点から考え、有効と考えられる症例に枕とアロマセラピーを用いた治療を行っているので、その方法の詳細を述べました。今後も増加するだろう不眠症の方々に正確な情報が伝達され、患者様に適切な治療が選択される事を願っています。

写真1

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